『虐殺ハッピーエンド』は、ネットでは8巻まで配信され、完結しています。
多くの方がすでにご存知かと思いますが、漫画アプリや電子書店で話題を独占し、未だに根強い人気を誇る作品です。
病気の妹・詩織の命を救うことを生きがいに日々を送る主人公・真琴。
ある日を境に兄妹は、タイムループ(同じ時間軸を繰り返すこと)に陥る。
それは、真琴と詩織だけが明日の来ない世界で生き続けるということ。
だが詩織の命をかけた手術は、一ヶ月後。
時を進めなければ詩織の命は一ヶ月後に消える。
そんな折、真琴は、激情にかられ思わず人を殺してしまう。
それがきっかけで、1日1人殺せば時を進めることができると気づく。
真琴は、究極の決断を迫られる。
『虐殺ハッピーエンド』の深いテーマとは
もしあなたが、大切な人の命を守るために、人を殺さなければならないとしたら、どうしますか。
これがこの作品の究極のテーマです。
この作品の主人公・真琴は、殺すことを選択します。
この選択が何をもたらすかが、物語を通しての「見どころ」になっています。
あまりにも非日常的なテーマですが、人の生き方に関わってくるテーマでもあります。
今回は、この作品が人のエゴや人の罪をどれほど見事に描いているかを紹介します。
『虐殺ハッピーエンド』が描く、人のエゴ
この作品を読んだほとんどの方が、”もしも真琴と同じ立場に立たされたら、自分だったらどうするか” 、と思わずにはいられなくなるはずです。
主人公・真琴は、人を殺すかどうかの選択を迫られるのですが、この選択を ”他人を犠牲にしてでも、大切な人を助けたいか” 、と抽象的に捉え直すと、それほど現実離れした話ではなくなってきます。
例えば正当防衛を例にとると、大切な人や自分の命を守るために、やむを得ず人を殺すことが法的に認められているわけですから、問題は程度の差にすぎないと考えることもできます。
でも実際には、どこまでが許されて、どこからがエゴになるのでしょうか。
簡単に答えられる問題ではありません。
この作品の中で登場人物たちが、それぞれの立場から、それぞれのエゴを、どこまで追求するかに注目すると面白いですよ。
ただ真琴に関しては、現実にはありえない状況設定のおかげで、客観的な立場から物語を見ることができて助かりました。
そうでないと、真琴の心情描写や葛藤が丁寧に描かれているぶん、うっかり感情移入してしまい、殺人を軽々しく正当化してしまいそうになります。
それほど、主人公・真琴の心情は身につまされるのです。
とにかく、物語を客観視できたおかげで、実に様々なことを考えさせられました。
特に、次のようなエゴに翻弄される人間たちに注目です。
- 普段は自分でも気づかない、心の奥底に誰もが持っている深いエゴ。
- 追い詰められたときや、究極の選択を迫られたときに、自分の行為を正当化するエゴ。
- 愛する人を守るために犯した罪なら正当化できる、と考えるエゴ。
人のエゴはどこまで許されるのでしょうか。
人は、エゴをすべて抑え込むべきなのでしょうか。
この作品では、すぐには答えの出にくい人のエゴについて深く考えさせられます。
『虐殺ハッピーエンド』が描く、人の罪
この作品は、人が犯す罪についても、深く考えさせられます。
物語の設定では、タイムループの世界に陥った真琴は、人を殺すと、時を進めることができます。
つまり、人を殺した時だけは時は巻き戻らず、その罪は取り返しのつかない罪として残るのです。
取り返しのつかない罪とは、償えない罪のことです。
ここに作者の強い思いを感じました。
そしてもう一つ、真琴がおかれた境遇を考えると、次のようなことを考えずにいられませんでした。
- ”罪を犯す必要のない境遇” にいられる者だけが、罪を犯さずに済んでいるんじゃないだろうか。
- ”どんな境遇や立場に置かれたとしても決して罪を犯さない人” は、どれほどいるだろうか。
これらもまた、すぐには答えの出ない問題です。
最後にひとこと
究極の選択を迫られた時、人はどう行動するべきなのか
この作品は、人として一度は考えてみるべき深いテーマを扱った、異色の傑作です。
人の心の奥底にまでストレートに訴えかけてくる、とても読みごたえのある作品です。
読者を選ぶ作品なので、すべての方にはおすすめできませんが、僕にとっては忘れられない作品のひとつです。
心がえぐられるようなエピソードが含まれていますので、ご注意ください。
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