『外れたみんなの頭のネジ』 ネタバレと考察 =人は狂気に囲まれた時、自分の正常性を証明できるか=

赤い背景の都会風景 サスペンス・ミステリー

何かが狂っている。

街の異変に気づいたのは、中学生のミサキだけだった。

周りを狂気に囲まれたミサキは、逆に自分の正常性を疑う。

時を同じくして、ミサキの部屋に悪魔・べへりんが現れる。

「もしかして狂っているのは私の方なの?」

はたして真相は。

『外れたみんなの頭のネジ』は、2021年現在ネットでは、12巻まで配信されています。

『外れたみんなの頭のネジ』の魅力

この作品は、”主人公・ミサキが、自分の周りの人間達が狂った原因を探る” というストーリーが継続する中で、一話完結型のショートストーリーが挟まれるという構成になっています。


正常と異常のはざまに立たされたミサキが、自分の正常性を証明することに手こずる姿が描かれていきます。


ホラーテイストに見えますが正統派ホラーとは違い、タガの外れた人間たちの異常な日常に焦点を当てたサスペンスと言えます。


今回は、「テーマの魅力」と「作画の魅力」に焦点を当てて紹介します。

テーマの魅力

この作品のテーマは、「正常と異常の基準をどこに置くべきか」です。


もしも人が社会を無視して、各々自分勝手に自分の正常性を主張したらどうなるでしょうか。


当然のことながら、社会は混乱し成り立たなくなるでしょう。


社会を成り立たせるためには、社会の基準に基づいて自分の正常性を主張する必要があります。


そうすると、社会の基準が変わったら、それに応じて自分の正常性も変えざるを得なくなります。


でもこの時、社会がどう変わろうが自分の正常性を正当化したい場合、その根拠をどこに置けばいいのでしょうか。


周りの人間が全員が正常だと感じていることに、自分だけが異常性を感じた時、自分の感覚の正当性の根拠をどこに求めればいいのでしょうか。


この物語の主人公・ミサキは、こんな状況に置かれ正常と異常のはざまで苦悩するのです。


普段は特に気にしないでいられることですが、ちょっと考えてみると、言いようのない恐ろしさに身がすくみます。


『外れたみんなの頭のネジ』は、日常の当たり前が当たり前でなくなる恐怖を実にうまく描いているのです。


その恐怖は、瞬間的に人を驚かす恐怖ではなく、心の隅に残り続ける怖さなんです。

作画の魅力

単純な線、類型化された表情が物足りないというレビューを見かけます。


でもこの作品の真骨頂は、リアルな絵で怖さを表現することではなく、いつまでも心に引っかかり続ける言いようのない狂気の感覚を、絵を通して感じさせる点にあります。


それは、勢いのある簡潔な線によって見事に実現されています。


また本作は、読者を考えさせる要素が多いのですが、登場人物たちの類型化された表情のおかげで、読者の思考が妨げられずに済んでいるのです。


結局のところ作画によって、”作者の思想” ”狂気の感覚” がストレートに伝わってくる最高の表現が実現されているのです。


またこの絵だからこそ、人の心の闇を感じさせる ”陰鬱な世界観” も実現できているのです。

最後にひとこと

自分が信じる正常を維持するために、価値観の崩壊に抗う主人公・ミサキですが、彼女の記憶の封印が解かれた時、どんな真相が待っているのか。


最後まで見届けたくなる作品です。




正常と異常を見分けるのに、社会の基準のみに頼って良いのか。


かと言ってもしも人間が、真の本能の赴くままに振る舞ったらどうなるのか。


様々なことを考えさせてくれる、実に読み応えのある作品です。




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《まんが王国》

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